第六話 庄川源流 (下)


蛭ケ野高原より望む大日ケ岳(1709m
目前に広がる 緩やかに開けた流れへと立ち込み 仕掛けを振り込むと 6〜7寸程のアマゴが
面白いように竿を曲げる  ちょっとした淵横にある岩へと腰を下ろし 横着な格好で竿を振ると
水中の魚が 我先にとエサを追うのが見て取れる    「なんて魚影の濃い谷なんだ。」 

庄川本流の魚体三態 上より 岩魚 アマゴ 銀毛
幾つかの淵や落ち込みを超へ しばらく行くと岩魚も
混じりだし 数百m先へと高さ5〜6mの滝が現れる
 だんだん近くなってくると その下に存在する
大淵が見えて来て 期待に膨らんで行くのを感じる

気の高まりを抑えて まずはと左岸より探ると
幾つかの中型アマゴ岩魚を抜き上げるが とても
二間半の竿では探りきれず 淵尻の瀬を徒渉し
対岸の岩板へと取り付く 見た目より手掛りの多い
岩棚のリス(割れ目)へ左手を差込 身を確保し
竿を振る。
深く暗い淵底へと エサのミミズが消えると、
少々仕掛けを送り込み 駆け上がり方向へ導く
魚が捕食しやすそうな場所へと掛かる頃 向こう合わせにて当たり 軽く竿を煽ると確かな手ごたえに
暗い淵底で”キラリ”と光る魚 中々良型のようだ 竿を溜めようとしたその瞬間竿先が魚の抵抗から
解放され宙に舞う 「なんてこった」 釣れ続く魚にと夢中になり 仕掛けの痛みに気づく事もなかった 
ラインは竿先で切れ仕掛けは何も残って居ない  「バカヤロウ ・・・。」

足場の良さそうな所へと移動し腰を下ろす 我が身の不注意を嘆き深く溜息をつき 今逃げた魚が 
見たことも無い大物に思えて来て 虚脱感に若干の間川面を見つめ過ごす  再び気を取り直して
仕掛けを作り直すが あの魚はもう喰っては来ないだろうと諦めの中にも 竿を手に淵へと向かう

          庄川源流域
先程喰いついた 駆け上がりの辺りで”モゾモゾ”と
した魚信 もしや岩魚かもと考え 若干送り気味の
合わせを呉れる 又も暗い淵底で”キラ 々”もがく
アマゴのようだが  何か変だ? 先程のバラシに
懲り慎重にいなす 淵底をあちらこちら左右に走る

と魚は急に抵抗を諦め その重量を竿先に預けて
浮き上がり出す
 目の前へと現れた良型アマゴに手を伸ばし掛けた
その時 思いがけ無い淵中央での 魚の跳ねに驚く
    「なに・・?」
難なく取り込んだ魚を見ると 口元からはラインが
二本 その先の糸を手探りで引き寄せてみると
見覚えの有る 水鳥羽毛の目印が現れ 仕掛けの
先に 確かな鼓動を感じ取れる。
   「こんな事って有るのかヨ・・?」
後から掛けた魚をいなして 泳がせているうちに
切れたラインを引き摺りながら泳いでいる先程の
アマゴを ラインごと絡め取っててしまった。
浮き上がってきた 件のアマゴの顔を見るなり
   「おまえ 間抜けなヤツだよなー。」
人気の無い 谷間にて可笑しくって 々 笑いを
抑える事が出来なかった。

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渓魚には同じ種類でも 場所や環境にて大きく個体差が有るようです 特に岩魚にはそれが多いようで

根尾のやまと岩魚 滋賀鈴鹿の無判岩魚等々・・今回の画像にある庄川本流のものは 白点の大きい

アメマスタイプの岩魚で その下の銀毛(ヤマメ)は赤身で味も濃くとても美味であった。

                                                 OOZEKI